「ちいさな英雄−カニとタマゴと透明人間−」
スタジオポノックが制作した短編映画集だ。
「カニーニとカニーノ」「サムライエッグ」「透明人間」の3編で構成されているが、それぞれの作品のリレーションはない。
母が産卵のためいなくなったカニーニとカニーノは父親と暮らしている。
ある日カニーノが流されそうになったとき、身代りに父が流されてしまう。
二人でその父を探しに行くストーリーだ。
小さな兄弟の冒険ストーリーとしては教科書通りで、特にどんでん返し的な物はない。
また、声優がついているもののセリフはほとんどなく、お互いの名前を呼び合う程度だ。
そういう意味でも、かなり小さい子供向けの作品なのだろう。
カニを擬人化して、それぞれカニの爪を先に付けた棒を武器として持っている点は面白いアイディアだ。
ただ、途中で本物のカニが出てきてしまうのは、ちょっと観ている子供を混乱させてしまうのではないかと思った。
実際劇場でも「この人たちカニなの?」と言う子どもの声が聞こえた。
「サムライエッグ」は、玉子アレルギーの少年とその母親のストーリーである。
玉子アレルギーのためにこれまでも苦労し、今もその事が原因で課外教室に参加できなくなりそうになったりする。
アレルギー治療が苦しいので避けようとする少年が、克服しようと決意するまでが描かれている。
内容的には、小学生向けと言ったところか。
ただこの作品を観て共感するのは、たぶん親ではないかと思う。
生まれてからずっと玉子アレルギーに苦しむ少年を、母親が一生懸命面倒を見てきた姿が描かれている。
「透明人間」は、姿が見えないために誰ともコミュニケーションを取ることができず、絶望する男の物語だ。
男は姿が見えないだけではなく質量もないため、重りを持ち歩かないと体が飛ばされてしまう。
一応会社に勤めてはいるが、そこでも彼の気配を感じ取るものは一人もいない。
コンビニのATMも使えないし、買い物をすることもできない。
現代社会の孤独を表現している作品だとは思うが、ハッキリ言って子供に理解するのはかなり難しいだろう。
ジブリの短編をすべて観ている訳ではないが、最初の作品の「On Your Mark」は秀作であった。
何かのDVDに付録として付いていたのを子供と一緒に観て、最初は意味がわからなかったが、途中から何度失敗を一からやり直すストーリーであることに気付いた。
大人には秀作に見えても、この作品も子供にはちょっと難しいだろうなと思った。
元来ジブリの短編はそういう傾向なのかもしれない。
今回の3作品も、「カニーニとカニーノ」の米林宏昌以外の二人の監督は、ジブリの短編を手掛けた事がある。
とは言え、この3作品で料金を取っている事を考えると、誰に向けての3作品なのかよくわからず、ちょっとどうなのかなと考えてしまった。
夏休みの公開なのに、週末午後の客席がガラガラであったのも気になった。
98.ちいさな英雄−カニとタマゴと透明人間−